ありし頃の愛犬と愛車とのスリーショット

                                   

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           朝日新聞記事「天声人語」欄(全国版)2003年2月19日 掲載

            革靴、サンダル、運動靴、ハイヒールに下駄(げた)もある。犯罪や交通事故で亡くなった人たち
           の等身大の人形(ひとがた)にそえられた靴の数々である。きのう東京の衆議院議員会館で開かれ
           た「生命(いのち)のメッセージ展in国会」の会場では、無念の死への遺族の悲しみと怒りとが静か
           に重く訴えかけていた。

            登校中の小学生の列に酒酔い運転の車が突っ込んだ事故で小学1年の長女涼香(りょうか)ちゃ
           んを亡くした大崎礼子さんは「無残な姿でした」と娘の死の状況を語る。「あれ以来、時間が進まな
           いんです」。小学生の兄2人の目の前での事故だった。2人の衝撃も大きかった。

            小さな運動靴を指さして礼子さんは「運動会の前に家族で買いに行きました。かけっこが得意だっ
           たから1等になろうね」と。涼香ちゃんは1等賞をとった。たった8カ月の短い小学校生活だった。

            酒酔い運転の男は末期がんの妻の看病で疲れていたという。情状酌量が認められ、実刑4年の
           判決だった。娘の命の重さに比べてあまりに刑が軽い。礼子さんの思いである。会場に展示された
           92の人形は、無残に切断された92の人生どれもが、かけがえのないものであることを語りかける。

            きのうの韓国の地下鉄火災では、刻々と犠牲者の数が増えていった。その数の多さは、地下鉄
           火災の恐ろしさを端的に教える。同時に、死に襲われた一人ひとりの人生について、残された者の
           悲しみについて思いを馳(は)せざるをえない。

            「あなたを失って、涙は枯れるものではないということを知りました」。礼子さんが娘に語りかけた
           言葉である。

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           毎日新聞記事(全国版)2003年2月19日 掲載

           生命のメッセージ展:被害者のオブジェ、小泉首相も訪問
           http://www.mainichi.co.jp/news/flash/shakai/20030219k0000m040047000c.html

           犯罪被害者の遺族が、生前の被害者をかたどったオブジェを展示して生命の大切さを訴える「生
           命のメッセージ展」が18日、東京都千代田区の衆院第1議員会館で開かれた。小泉純一郎首相
           も谷垣禎一国家公安委員長、森山真弓法相とともに訪れ、「家族を亡くした遺族の悲しい気持ち
           を受け止め、悲劇を起こさないための対応をわれわれ国会議員が考えていかないといけない」と
           あいさつした。

           展示会には、99年11月に東名高速道で酒酔い運転の大型トラックに追突されて死亡した井上奏
           子ちゃん(当時3歳)ら被害者92人の等身大のオブジェを展示。生前の写真と遺品、被害状況や
           遺族からのメッセージが張り付けられ、事件、事故の悲惨さを訴えている。

           メッセージ展は約2年前から全国各地で開かれている。今回の入場は国会議員や通行証を持っ
           た国会関係者に限られたが、主催者側が「立法に携わる国会議員や閣僚、中央官庁職員を対
           象に犯罪被害者側からのメッセージを伝えたい」と実現にこぎつけた。

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           読売新聞記事(多摩版)2001年8月1日 掲載

           輪禍をなくせ-第2部 裁きの現場から1

           「検察は私たちの思いを代弁してくれませんでした。民事裁判で望むことは私たちを納得させて欲し
           いと言うことだけです」

             六年前、娘を轢き逃げ事故で無くした町田市野津田町の会社員秦野益人さん(63)、敞子さん(55)夫
           妻は轢き逃げしたドライバーの勤めていた会社を相手に地裁八王子支部に起こした損害賠償訴訟の判
           決を、明日二日に控えて心境を語る。
             1995年4月22日の朝だった。長女真弓さん(当時二十四歳)はバイクで自宅近くを走行中、土木作業
           員が運転するワゴン車と接触、頭部を轢かれて死亡した。作業員は逃走したが、二週間後、業務上過
           失致死と道交法違反(轢き逃げ)の疑いで逮捕。町田署の調べに、事故の約二時間前まで、かなりの酒
           を飲んでいたことも供述した。

             しかし、地検八王子支部は業務上過失致死について不起訴にし、轢き逃げだけで起訴した。後ろを
           走っていたドライバーの「バイクは車の左後部に接触して飛ばされた」と言う証言を基にした実況見分
           調書を重視、バイクの方から車の方に接触して倒れたと判断したからだった。
             作業員は懲役八ヶ月の実刑判決を受けたが、夫妻は業務上過失致死での不起訴に納得しなかった
           。真弓さんは無事故無違反。しかも事故は走り慣れた道で起きた。

           「直進中のバイクがいきなり後輪で轢かれることがありうるのか」

             夫妻は作業員の運転していた車の転売先を調べ、修理箇所を確認するとともに、”交通事故鑑定人
           ”の草分けとして知られる駒沢幹也さん(84)に相談した。一線を退いていた駒沢さんだったが、「捜査
           があまりにもお粗末。このまま見過ごせない」と協力を約束し、ワゴン車左前部にバイクのバックミラ
           ーやハンドルの高さのキズがあり、真弓さんのヘルメットの塗料が残っていると鑑定した。

             おととし十月には、駒沢さんの鑑定書と約四万三千人の署名を持って、最高検に再捜査を求めた。
           その結果、最高検は昨年四月、「左前輪で轢かれた」と結論付けた。事実上警察の捜査ミスを認めたこ
           とになるが、「業務上過失致死罪については立証できず、不起訴とする」と回答。再捜査の詳細は明ら
           かにしなかった。夫妻は、「左前輪で轢かれてどうして不起訴のままなのか。まず不起訴ありきではな
           いのか。酒を飲んで人を轢いた人間はみんな逃げた方がいいと奨励しているようなものではないです
           か」と憤る。

             その思いをぶつけたのが民事裁判だった。裁判では改めて、事実認定を含めた判断が下されること
           になる。

             交通事故の被害者や遺族は悲しみがいえないまま、加害者の刑事処分や保険会社を介した賠償問
           題などに巻き込まれていく。警察や検察の捜査は万全なのか。裁判は有効に機能しているのか。保険
           会社の判断に問題はないのか。相次ぐ悪質な交通事故をきっかけに、厳罰化を視野に入れた法改正の
           起こる中で、事故被害者の側から、裁きの場を考える。
           

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           読売新聞記事(多摩版)2001年8月2日 掲載

           輪禍をなくせ-第2部 裁きの現場から2

             ひっそりとした六畳間の一室。事故から六年が過ぎた今も、轢き逃げ事故で亡くなった真弓さん
           の部屋には、真弓さんが事故当時身につけていたヘルメットやコートなどの遺品が大事に保管されて
           いる。
             「とうとう保険会社は一度もこの部屋を見に来ませんでした。これだけの証拠を一度も見ないで
           娘に100%過失があるとされて、どうして納得が出来ますか」と、秦野さん夫妻が悔しさを表現する。
             検察の不起訴判断は、賠償問題にも影響した。事故の責任が100%あるとされ、遺族には自賠責
           保険さえ一切支払われていない。被害者救済が主目的の自賠責保険は、被害者に七割以上の過失が
           あれば減額されるが、真弓さんのケースは加害者側に全く責任なしと判断されたのだ。
             その通知書が損害保険会社から届いたのは事故から一年後。調査結果わずか100文字程度の文書
           だった。

           「飲酒運転で轢き逃げ死亡事故を起こした加害者に過失は全くないのですか?」

             夫妻の問いかけに保険料率を決めた自動車保険料率算定会(自算会、本部・千代田区)の職員は、
           「飲酒運転は道交法違反ではあるが事故の過失には直接にはつながらない。お酒を飲んでいてもまっ
           すぐ運転できる人もいる」と答えるだけ。事故の疑問点や調査不足を指摘した保険会社の窓口では「
           現場に行ったから」「事故から一年近く経った現場に行って一体何がわかるというのか」というやり
           とりもあった。
             真弓さんの事故のケースは、テレビや雑誌でも詳しく報じられ、多くの事故被害者らから「重傷
           事故より死亡事故の方が加害者無責とされるケースが多い。死人に口なしではないか」との批判が起
           こった。旧運輸省は1998年4月、自算会に審査制度の充実を指導。事実関係の特定が難しいケースは
           特別の審査にかけ、請求者からの異議に対する再審査制度も設けた。
             だが、「自賠責を含め、営利企業の各保険会社が事故交渉を行っていて、どれだけ被害者救済の実
           行が伴うか疑問」との声も多い。

             民事裁判の提訴から五年。被告側弁護士は「自算会が数字で100%過失なしと判断してる以上、和
           解することもできない」。自算会は「個別の事案については回答できない」とだけコメントする。
             今日二日の判決を前に、秦野さんは、「事実を知れば知るほど、警察・検察や保険会社の言い分
           は納得できない。民事裁判は、娘を被害者として認めてもらうための最後の手段。娘の無念を晴らし
           たい」と、唇をかみしめた。
 

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           読売新聞記事(多摩版)2001年8月3日 掲載

           原告の全面勝訴判決

           「被告の主張、証拠ない」
             最高検が再捜査で警察捜査を不十分と指摘しながら業務上過失致死について不起訴とした町田市
           での轢き逃げ事故で、亡くなったバイクの女性の両親が、ワゴン車を運転していた男性の勤務先の会
           社に損害賠償を求めていた訴訟の判決が、地裁八王子支部であった。中山幾次郎裁判官は原告の主張
           をほぼ全面的に認め、損害賠償金の支払を命じた。ただ、事故の態様についての事実認定については
           明確な判断を避けた。

             訴えていたのは、町田市の会社員秦野益人さん敞子夫妻。長女で会社員の真弓さんは、1995年4月
           22日午前6時20分頃、自宅近くの都道をバイクで走行中、同一方向を走っていた土木作業員の男性が運
           転する会社所有のワゴン車に頭部を轢かれて死亡した。
             裁判で、被告側は町田署の実況見分調書を基に、バイクがワゴン車の左側面後方に接触後、真弓さ
           んは後輪で轢かれたと主張した。秦野さん側は、ワゴン車が左前部でバイクに追突、真弓さんは前輪で
           轢かれ、その後に左後輪で跳ね上げられたと主張していた。

             この日の判決では、まず「ワゴン車の運転手の供述には一貫性がなく信用できない」などとして、
           「被告の主張はいずれも認めるに足る証拠がない」と断じた。その上で、被告の主張通りとしても運転
           手には事故を防ぐ注意義務があり、「運転手が直ちにハンドルを右に切って急ブレーキをかける等の操
           作をしていれば頭部を轢くことは回避できた可能性があった」などとして、「被告の過失がないと断定
           できない」とした。
             事故の態様については、「原告の主張通り、ワゴン車が前方のバイクに追突し、真弓さんが転倒し
           ワゴン車の左前輪で轢かれた可能性を否定できない」としながらも、「原告の主張通りとは断定できな
           い」とも述べ、事実認定についてあいまいな部分を残した。

           捜査では「被害者の過失」

             この日判決のあった事故で、ワゴン車を運転していた土木作業員は、二週間後に業務上過失致死
           と道交法違反(轢き逃げ)の疑いで逮捕されたが、地検八王子支部は、業務上過失致死について不起
           訴とした。秦野さんは保険会社からも全面的に過失があるとされ、自賠責保険も全く支払われていな
           かった。
           秦野さん夫妻の不服申し立てに対し、最高検は昨年4月、「真弓さんは左前輪で轢かれた」と事故原因
           を改めて、事実上警察の捜査の誤りを認めたが、「不起訴相当」は変わらないと回答していた。

           原告主張を認めるも「捜査ミス」踏み込まず

             原告の秦野さん夫妻は、真弓さんの遺影を抱えて判決に臨んだ。判決後、益人さんは、「民事裁判
           でやっと娘を被害者として認めてもらえた。ただ、事実認定について玉虫色の判決であったのは残念。
           警察捜査のずさんさを指摘するなど、もう少し踏み込んだ判決を頂きたかった」と答えた。
             また、原告側の栗原浩弁護士は「秦野さんの思いが通じた判決で感無量の思い。事実認定は、遠回
           しではあるが、我々の主張が自然だと裁判所が判断してくれたと受け止めている」と話している。
             一方、被告側の弁護士は「判決文を良く読んでいないのでコメントできない」としている。
 

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           朝日新聞記事 「声」欄(全国版)2001年8月19日 掲載

           『亡き娘の無念晴らした判決』

              主婦 秦野敞子(東京都町田市 55歳)

             95年4月、24歳だった娘の真弓は、バイク走行中にワゴン車にひき逃げされて亡くなった。16日後、
           犯人逮捕の朝、私は夢まくらに立った真弓を抱きしめた。犯人の逮捕で、娘の無念が晴れるものと信
           じていた。
             ところが現実は、追突され被害者のはずの娘が「バイクが勝手に倒れ込んだ」と加害者にされ、業
           務上過失致死罪は不起訴。まさに「死人に口なし」だった。
             私は、警察と地検の誤りをただすため、血のにじむ思いで闘った。4万3千人の署名を集め、最高
           検に捜査の不備を認めさせたが、業務上過失致死罪の不起訴は変わらなかった。そして裁判官に「
           刑事裁判の延長」と言わせた民事裁判の判決が今月2日にあった。
             私は原告席に座り、娘の遺骨と遺髪の入ったお守りを握りしめ判決を聞いた。全面勝訴!裁判官
           は、真弓に過失は無いとし、ひき逃げ犯人の注意義務違反を厳しく指摘してくれた。
             真弓よ!あなたがかえってこない悲しみは消えないが、一緒に原告席に座り全面勝訴の判決を聞
           いた瞬間の感動と達成感を胸に、一緒に生きていこうね。
           

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                           娘の大好きだったテレビ番組「アライグマ ラスカル」のワンショット

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